マンションは、戸建て住宅と比べて大きな建物ですが、年を追うごとに少しずつ劣化していくものです。そのため、劣化を修復するために大規模修繕を定期的に行う必要があります。
今回は、大規模修繕の必要性や工事にかかる費用、工事の流れなどについて解説します。
目次
1.マンションの大規模修繕工事とは?
大規模修繕とは、一般的にマンションの外装部分を修繕する工事のことを指します。
例えば外壁が剥がれてしまうなど、外装部分は時間が経つにつれて劣化してしまうため、修繕を行う必要があります。
大規模修繕の内容としては、屋上や屋根の防水工事、外壁の塗装、外装のタイル塗装、シーリング工事など外装に関する工事全般が該当します。
大規模修繕工事と一言で言っても、工事の目的は大きく分けて以下の2つにわかれます。
- マンションを当初の状態に戻す「修繕」
- マンションを当初の状態以上に引き上げる「改良」
修繕工事というと一般的には、「修繕」が当てはまりますが、修繕のついでに「マンションの機能を良くしよう」といった場合は「改良」になるということです。
1-1.大規模修繕の費用
大規模修繕は「大規模」という言葉がついているように、工事の規模が大きいため、工事費用も高くなるケースがあります。
東京都都市整備局が発表した「マンション実態調査(2013)」によると、大規模修繕の費用総額で最も多かった価格帯は1,000万円~3,000万円でした。
マンションによって大規模修繕にかかる費用は異なりますが、1億円を超える工事もある一方で、100万円以内に収まっている工事もあります。
工事費用総額は、マンションの規模や工事内容などによって変動します。
また、立地条件や劣化具合、付帯工事の有無も工事費用に影響を与えます。
ここまでで挙げた金額はあくまでも総額であり、1戸あたりの負担額ではありません。
例えば、工事費用総額が3,000万円でマンションの戸数が100戸だった場合、1戸あたりの負担額は30万円となります。
工事費用総額とマンションの戸数によっては、1戸あたりの負担額が100万円を超える可能性も十分にあり得ます。
1-2.修繕積立金
費用総額を戸数で割るとしても、その負担額は決して小さくありません。
工事を行うタイミングで、高額な費用を一括徴収することは難しいといえます。
そのため各マンションでは、大規模修繕に備えて工事費用を定期的に積み立てているケースが一般的です。
この積立金のことを「修繕積立金」といいます。
修繕積立金として積み立てていったお金を工事費用に当てることで、住民への一括徴収を避けることが可能です。
先ほども紹介した「マンション実態調査(2013)」によると、修繕積立金の1戸あたりの負担額は、以下のようにマンション全体の戸数が少ないほど大きくなっています。
戸数 | 一戸あたりの負担額 |
---|---|
1~20戸 | 1.33万円 |
21~40戸 | 1.08万円 |
41~60戸 | 1.06万円 |
61~80戸 | 1.05万円 |
81~100戸 | 1.08万円 |
101~200戸 | 1.03万円 |
201戸~ | 0.93万円 |
大規模修繕は、工事費用総額が大きいため、工事資金の確保は大きな課題となります。
最悪の場合、資金が足りずに工事が実施できない事態に陥る可能性もゼロではありません。
修繕積立金は、マンションを長年にわたって維持していくために欠かせないため、計画的に積み立てておきましょう。
2.大規模修繕の目的・必要性
マンションは、戸建ての住宅よりも大きな建物であるため、戸建より頑丈なイメージがあるかもしれません。
しかし、マンションであっても、戸建住宅と同じように経年劣化してしまいます。
特に建物にとって大敵となるのが紫外線です。
外装部分は紫外線がいつも当たっている状態であり、例えば屋上の防水塗装や外壁タイルなどは紫外線によって少しずつ劣化します。
さらに、雨風にさらされることでも同様に劣化が進行します。
もちろん、建物に使用されている素材や防水機能、立地など様々な条件によって劣化の進行速度は異なりますが、それでも劣化は必ず起こります。
劣化部分を修復するために、大規模修繕は必要不可欠です。
3.マンションの大規模修繕の流れ
ここからは、大まかな大規模修繕の流れについて、以下の順番で見ていきましょう。
- ①修繕委員会を設置する
- ②数社で見積もりを出す
- ③見積もりをもとに施工会社を決定し、契約する
- ④マンション住民に向けて大規模修繕に関する説明会を開催する
- ⑤施工を開始する
修繕委員会の設置から施工開始まで、早ければ3か月~半年程度で進めることができます。
もちろん、打ち合わせの回数や見積もりを取る業者の数によっては期間が延びる可能性も考えられます。
そのため、施工開始から逆算し、委員会は1年から1年半前を目安として設置するようにしてください。
以下、各工程の内容について詳しく説明します。
3-1.修繕委員会の設置
マンションの管理組合や理事会などによって大規模工事の実施が決定されたら、まずは修繕委員会を作ります。修繕委員会は、簡単に言うと工事対策チームです。
主な仕事内容としては以下のようなものが挙げられます。
- 工事業者の選定
- 業者との打ち合わせ
- 壁や床によって囲まれた居住空間
- 住民の窓口になる など
「委員会」と名前がついていますが、マンションの住民の中から選出されるケースが一般的です。
マンションの管理会社や外部のコンサルタントを利用するケースもあります。
いずれにしても、大規模修繕は修繕委員会が中心となって進めていくこととなります。
ただし、修繕委員会はあくまでも実務を担うチームであり、工事の内容などに関する決定権は持っていません。決定を下すのはあくまでも理事会です。
3-2.数社で見積もり
大規模修繕には高額な費用がかかるため、工事業者を選ぶ際には複数の会社から見積もりを取るようにしましょう。
費用総額はもちろん、工事の内容や工期、過去の施工実績、財務状況、担当者の人柄なども踏まえて業者を選ぶようにしてください。
なお、管理会社がマンションの管理を行っている場合は、自動的に提携している施工業者に決定するケースもあります。
3-3.施工会社の決定・契約
見積もりをもとに、工事を担当する施工会社を決定します。業者の選定は、ある程度まで修繕委員会で行いますが、最終的な決定は理事会が行うこととなります。
そのため、修繕委員会は施工会社の選定状況に関して、こまめに理事会に報告しておくことが大切です。そうすることで、修繕委員会の意向を汲んだ決定を下してくれるでしょう。
3-4.工事説明会
施工業者が決まったら、マンション住民に向けて具体的な工事計画を説明する説明会を行います。
大規模修繕は、住民が生活を送る中で行われるため、住民は工事に対してさまざまな不安を抱えていることが予想されます。
このような不安を取り除き、住民が工事期間中も安心して生活できるようにするために、必ず説明会を開催しましょう。
3-5.施工開始
説明会が終わり、工事に対する住民の理解が得られたら、いよいよ施工開始です。
施工開始後は基本的に業者が計画に沿って工事を行うのみですが、住民からの不満やクレームが出てくる場合もあります。
そういったトラブルには、修繕委員会が窓口となり、可能な限り改善・対応するようにしましょう。
4.修繕費用の負担を軽くする方法
費用を抑える主な方法には、以下のようなものがあります。
・工事内容を見直す
工事内容を見直し、本当に実施する必要があるのかを再検討する方法です。
建物が安全であることがわかっていれば、工事の実施時期を延期することもでき、また改良を行わず修繕のみにとどめることも可能です。
・修繕委員会が中心となって進める
コンサルタントや管理会社を利用せず、修繕委員会が工事内容や費用、工期などに関して施工業者とやり取りする方法です。
コンサルタントなど外部の組織を利用する場合、どうしても中間マージンが発生してしまうため、ここを省くことで費用を抑えることができます。
ただしこの場合、修繕委員会に大規模修繕に精通した人がいることが条件となります。
5.まとめ
今回は、マンションの大規模修繕の概要から工事にかかる費用、工事の流れについて解説しました。
修繕委員会の設置から実際に施工が開始するまでには一定の期間を要します。
費用面に関しては、修繕積立金などを積極的に活用することで、少しずつ費用を貯めておくことが可能です。
マンションは必ず劣化するため、少しずつ工事に向けた準備を進めておくようにしましょう。