管理者必見!マンションの修繕積立金を値上げすべきタイミングとは?

増税や資材・人材確保の難しさから、修繕積立金を大幅に見直さなくてはならないマンションが増えています。オーナーや管理組合が、いざ修繕を行う時期になり、「足りない分があるので一括で払ってください」と各戸へ分担を求めても、理解を得るのは難しいでしょう。

しかし、現実問題として、分譲時の金額を維持しているだけでは、修繕積立金が不足する事態も発生します。今回は、マンション経営で近年とくに悩みの種となっている、「修繕積立金の値上げ」について、最適なタイミングはいつなのかをご紹介します。

1.マンション経営における修繕積立金の重要性

経年劣化により、マンションの快適性や安全性は低下していきます。劣化した設備や外観を一定のレベルまで戻すことができるのが「大規模修繕」です。

大規模修繕は10~15年間隔で定期的に行われ、主にマンションの共用部を対象としています。その必要経費に充てるため、各戸から預かるのが修繕積立金です。

    <大規模修繕工事の代表例>
    ・下地・タイル補修など外観の修繕
    ・建物のヒビ割れの補修や補強
    ・手すりの防錆処置や撤去新設
    ・外壁・鉄部分の塗装
    ・屋上・廊下などの防水処理
    ・エレベーターのリニューアル

また、修繕積立金は災害など不足の事態による修繕や、共用部を修繕ではなく仕様変更するための費用としても活用されます。大規模修繕では不十分と判断された場合は、建物そのものを建て替えるケースもあり、その際の調査費用にも充てられるなど、修繕積立金の用途はさまざまです。

1-1.管理費と修繕積立金の違いとは?

住人が毎月支払う費用には「管理費」もありますが、修繕積立金とは異なるものとして認識しておく必要があります。

    ・管理費…マンションの快適性を維持するための経費
    ・修繕積立金…大規模修繕などに備えるための貯金

管理費は共用部の維持費や使用料・保険料の他、管理会社や管理組合の費用に充てられます。

2.修繕積立金の徴収方法は3種類

マンションの管理組合が修繕積立金を徴収する方法は、毎月決まった金額を徴収する方法は、3通りあります。

2011年に国土交通省が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で望ましいとしたのは、毎月一定額を徴収する方法ですが、あえて他の方法を採用するケースもあります。

2-1.均等積立方式

均等積立方式は、20~30年後までに見込まれる修繕費の累計を算出し、毎月一定額を支払ってもらうように累計額を均等する徴収方法です。

築年数によって増額していく修繕費をある程度想定しているため、いざ修繕となった時に「積み立てた費用だけでは全く足りなかった」となるリスクを減らせます。毎月定額で支払うことで、入居者の負担の軽減できるメリットもあります。 一方で、災害や突発的な故障など、想定外の修繕費用が発生した時に、毎月の徴収額を見直す必要が出てくるデメリットについても留意しておかなければなりません。

2-2.段階増額積立方式

段階増額積立方式も毎月徴収する点は均等積立方式と同じですが、将来的に増額していく点に大きな違いがあります。

国土交通省は均等積立方式を望ましいとしていますが、多くの新築マンションで、段階増額積立方式を採用しています。数年~10年ごとに増額していく段階増額積立方式は、新築から数年間の徴収額を抑えることができます。

マンション購入時の費用を抑えられるため、購入希望者を集めやすいメリットがある一方、計画通りの増額ができないリスクもあります。将来的に最初の徴収額の2倍以上増額しなければならないケースもあるため、計画書を作成していても、増額幅によっては住人の同意を得にくくなります。

2-3.一時金徴収方式

一時金徴収方式では、修繕の必要に応じて一括徴収します。多くのマンションでは、均等積立方式か段階増額積立方式のどちらかを採用しています。しかし、一時金徴収方式を採用しているマンションも稀にですが存在します。

修繕内容に合わせて必要な費用を各戸に割り当てることから、徴収する額を概算で決める修繕積立金のように不足するリスクがない点がメリットです。
一方で、一括で大金を徴収することになることがデメリットとして挙げられます。かなりの金額となり、各戸の負担額を予定通りに徴収できず、トラブルを招くリスクがあります。

3.修繕積立金を値上げするタイミング

段階的に増額する段階増額積立方式を採用していなくても、各費用の高騰により、修繕積立金の値上げを考えなければならない場合があります。オーナーや管理組合など、管理者の立場としては、住人の反対や支払い拒否を防ぐために、きちんと理解を得られるタイミングで値上げに踏み切りたいものです。

多くのマンションでは、築5年や15年のタイミングで値上げを実行していますが、国土交通省のガイドラインを参考に12年周期で値上げするマンションもあり、一概にいつがベストなのかは断定できません。

今回は、値上げを検討したい時期を3つご紹介します。

3-1.大規模修繕が終わった時期

値上げに踏み切りやすいタイミングのひとつが、大規模修繕を終えたタイミングです。

一定期間ごとに行われる外観や共用部の修繕は、マンションの安全性や快適性、資産価値を守るために不可欠です。しかし、大規模修繕で業者の手を入れた部分も、経年により再び劣化していきます。築年数がたてばたつほど劣化は激しくなるため、多額の修繕費を見込んでおく必要があります。

終わったばかりの修繕工事にかかった費用を参考に、次回の大規模修繕に対する備えとして、修繕積立金の見直しや値上げを検討しましょう。

3-2.修繕計画で値上げが計画されていた時期

段階増額積立方式を採用しているマンションは、計画通りに値上げするのが入居者に提案しやすいタイミングです。将来の修繕工事と値上げするタイミングを、契約時に提示しておきましょう。

ただし、段階的に修繕積立金を増額していくのは、計画通りとはいえ容易ではありません。住人の理解を得られなかったり、徴収がうまくいかなかったりするトラブルを避けるために計画通りの値上げを行えないマンションも存在します。しかし、住人とのトラブルリスクを避けて値上げを行わなかった場合、大規模修繕の時に修繕積立金が不足してしまいます。

将来、一時金で大金を徴収することになるリスクなどを説明し、計画通りの値上げに踏み切りましょう。

3-3.経済状況によって修繕工事費の価格が上がる時期

経済状況に合わせた値上げは、交渉の場でそのようなリスクをあげ、合理的な説明ができるタイミングです。

材料や人件費の高騰による修繕工事費の増額は、ある程度想定されています。しかし、社会情勢の変化なども影響して、想定以上に工事費が跳ね上がることもあるでしょう。

増税や業界の変化など、経済状況の変化に合わせて修繕積立金を値上げすれば、住人の理解を得やすくなります。修繕積立金と実際にかかる費用に大きな差があると、最悪の場合、大規模修繕の計画自体がずれ込んでしまいます。

修繕工事は、建物の安全性にも関わる重要な工事であるため、計画通りに行えるよう、経済状況に合わせて値上げすべきか判断しましょう。

4.修繕積立金の値上げをする前に…

当初から値上げを想定した計画を立てていたり、経済状況が変化したりと、値上げが回避できない場合はあります。しかし、安易に、値上げで工事費の不足を解決しようとするのは危険です。

入居者から理解を得られなければ、修繕積立金の徴収自体が困難となります。満足度の低下や住民トラブルが発生すれば、入居者の退去も発生する恐れがあり、マンション運営に影響を与えます。

修繕費が不足した場合、まずは値上げ以外の対策を検討しましょう。具体的には、管理費やメンテナンス費など「支出の見直し」を行います。

たとえば、共用部の電灯をLEDに交換すると、長期間買い替えることなく使用でき、長い目で見ればコストカットにつながります。外部に管理委託している場合は、管理委託費を見直して、契約の変更も視野に入れてみましょう。
こまかな部分、削減できそうなコストから、マンション管理にかかる支出を見直すことが重要です。

また、以下のように修繕積立金の計画そのものに問題はないか、事前対策にも力を入れましょう。

    <修繕積立金不足を防ぐ事前の対策>
    ・販売時の修繕積立金を下げすぎない
    ・国土交通省の『長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン』に沿う
    ・修繕計画や修繕積立金計画の書類には、具体的な修繕内容を記載する
    ・管理費や修繕積立金以外の収入も検討する

修繕積立金を低く設定していれば、販売時に購入者を増やせますが、住宅ローンの返済計画に修繕積立金の値上げを加味できていない入居者もいるでしょう。結果的に修繕費が集まらず、計画通りに大規模修繕を行えなかった場合、マンションの物件価格にも影響が出ます。所有者が中古物件として売りに出そうとしても、売買契約をスムーズに結べなくなります。

不用意に修繕積立金を低く設定せず、将来の修繕工事を見越した金額設定と、計画的な積立金の収集を継続して行うことで、健全なマンション運営を行うことができるのです。

5.まとめ

マンションの修繕積立金をきちんと徴収していても、いざ大規模修繕の時を迎えると「積立金が足りなかった」というトラブルは起こり得ます。

積立金の不足を避けるには、修繕積立金の値上げが検討されますが、住人の理解を得られるベストなタイミングで値上げを提案しなければなりません。修繕費が不足しないような、計画を立てておくことも重要です。

当初の値上げ計画や費用高騰など、値上げしやすいタイミングに合わせて修繕積立金の見直しを行い、将来の大規模修繕に備えましょう。