今回のコラムでは、大規模修繕においてよく起こるトラブルを紹介していきたいと思います。
大規模修繕は事前準備からかなりの時間とお金と労力がかかります。その分トラブルも起きやすいだけでなく、大きなトラブルに発展する可能性もあるため、注意が必要です。
施工前のトラブル
修繕委員会の結成がうまくいかない
大規模修繕委員会は5人程度で結成するのが一般的です。決まりがあるわけではないですが、少なすぎても多すぎてもトラブルの原因になりうることがあります。
少なすぎた場合
修繕委員会の結成に苦労をしている管理組合も多くいます。希望者を募っても集まらないことがほとんどです。しかし、ある程度の人数を世代や性別にとらわれずに集めることができなかったときにトラブルにつながる可能性があります。
例えば、2人しか希望者がでず、2人で進めてしまった場合、2つの意見しか集まりません。大規模修繕では幅の広い意見を集約することが大切です。また、人数が少ない場合に「大変だから管理会社に任せてしまう」という結果につながりやすいこともデメリットです。管理会社に任せると、競争原理が働かないため費用がかさむ可能性が大きいです。
多すぎる場合
本来修繕委員会のメンバーを公募制にすると集まりにくいものですが、集まった人数が多すぎたとしても別の問題が起こります。それは「意見がまとまらない」という問題です。年齢や性別によって人の価値観は変わってきます。人数が集まりすぎると優先順位がそれぞれ違うため、計画が円滑に進まない可能性があります。
例えば、年配の方でしたら修繕費用を安くして、別の手すりやスロープの設置を希望するかもしれません。逆に若い人でしたら、将来の資産価値を考えて少しでも価値を維持できるように、念入りな修繕を希望する人もいるかもしれません。
これらの意見はどちらが正しいというわけではなく、何を優先するかで決まってきます。委員会の人数が多すぎた場合、優先順位の決定にも多大な労力が必要になるケースもあります。
ベランダの私物の撤去
居住者の中にはバルコニー(ベランダ)で観葉植物を育てている方がいるかもしれません。しかし、大規模修繕ではバルコニーの手すりや床も修繕箇所となりますので、撤去しなければなりません。また、物置などの私物をベランダに置いている人もいます。
そういった場合、バルコニーの大規模修繕の時に「私物の置き場所がない。」というトラブルに発展する可能性があります。
その時のために一時的な置き場所を作る例があります。
本来バルコニーは共用部です。緊急時には避難経路となっているマンションがほとんどだと思います。ここに大きな物置などを置いてしまうと避難の妨げになってしまうので避けたほうがよいですが、円滑に工事を進めるにあたって一時置き場を用意するのもよいかもしれません。
施工中のトラブル
近隣住民からのクレーム
居住者ではなく近隣の住民によるクレームです。マンションの組合員にアナウンスをしっかり行ったとしても、近隣住民からクレームが来る可能性があります。
まして近隣の住民からしたら、大規模修繕は他人の家のことであり当事者ではありません。
例えば「家の前にトラックが停まっている」「工事の音がうるさい」などのクレームがです。しかし、工事に音や資材は付き物で、これらを完全に排除することは不可能です。解決策としては、事前挨拶へ伺うことが挙げられます。これは心理的な問題で、良好な人間関係を築くことができればこのクレームは回避することができます。誰だってある日急に家の前にトラックが停まっていたり、近所を知らない人にうろつかれたりしたらいい気分にはなりませんよね。事前に挨拶に行くことで「しょうがないか」という気持ちになります。大規模修繕でまったく近隣に迷惑をかけないことはありえませんので、事前に対策をとっておくことが大切です。
生活の制限による入居者からのクレーム
大規模修繕の最中では窓が開けられなかったり、ベランダを人が歩いていたり、洗濯物が干せなかったりと、精神的にも肉体的にも入居者の負担は大きくなります。
これに対しても事前のアナウンスがしっかりなされていればトラブルを軽くすることができます。「○日の○時~○時まで窓は開けないでください」という連絡がしっかりしていれば、自分のマンションのことですし、期間も分かっているので「仕方ないか」という気持ちになります。
施工後のトラブル
工期が短いことによる不具合
大規模修繕では居住しながら工事が行われるため、入居者にとっては工期が短いほうがよいですよね。工期が長いと費用もかさみますし、居住者の精神的な負担も大きくなります。しかし、無理に工期を短くすることは避けましょう。工期を短くすることで、あまい工事が行われてしまう可能性がないとは言えません。特に外壁の下地補修などは素人が見ても施工不良が見抜けない部分ですので注意が必要です。工事から1,2年で雨漏りが発生したり、修繕箇所でひび割れがおこったりするのは施工不良です。施工に関するトラブルはアフターケアをどの程度まで行っているかを調べることによって減らすことができます。アフターケアを手厚く保証しているケースでは施工不良は会社の損失でしかありませんので、しっかりと施工してくれる可能性が高いです。また、定期点検を行ってくれる施工会社もあるので、有効に使うことをおすすめします。
そして工程の管理を徹底することも対策として有効です。例えば塗装を重ねる回数でしたり、シーリングの打ち替えと打ち増しの違いなどをしっかりチェックし、代表者が確認することが望ましいです。
修繕積立金の不足
基本的に修繕積立金は足りなくなることが多いと思っていいでしょう。特に最初の大規模修繕ではスタートが新築の状態です。新築の状態では「どこが痛みやすい」といった情報もなく、修繕費の具体的な予想を立てるのはきわめて困難です。
修繕積立金が足りなくなった時には対策としていくつか方法があり、それは組合によってさまざまです。
修繕積立金(管理費)を値上げすることで補う。
こちらは別の資金から一時的に支払いを済ませ、管理費や修繕積立金を上げてフォローしていく方法です。この方法をとる場合、月々の支払い金額に変動が起こるため、居住者から反対が起こる可能性があります。
修繕費として居住者から徴収する
月々に支払う金額は変わらずに、修繕の時に追加で修繕費を徴収するパターンです。この方法で注意が必要なのは、一時的にまとまったお金を用意することになるため、居住者からの反対が起こる可能性があります。
工事内容の見直しを行う
その時の工事は必要最低限で抑え、次の大規模修繕に向けて対策を考えるパターンがこちらです。この方法で注意すべきことは、この対策は先延ばしにしているだけであり、工事の必要がないわけではないということです。建物に蓄積したダメージが消えるわけではないので、次回の大規模修繕の費用はそれ以上に費用がかさんでしまう可能性が高いです。
まとめ
修繕積立金の不足が起こった場合は、しっかりと長期修繕計画を見直し、次回の大規模修繕から足りなくなることがないようにしましょう。長期修繕計画を定期的に見直すことでこのトラブルは回避することができます。
今回は大規模修繕でよくあるトラブルを紹介させていただきました。大規模修繕は大きな工事ですので、トラブルの危険はありますが、相手を思いやることでトラブルを避けることはできると思います。皆様の大規模修繕のお役に立てればと思っております。